本試験問題にチャレンジ!
こんにちは。資格の大原行政書士講座専任講師の松井です。
このコーナーでは、過去の行政書士試験で出題された問題をピックアップしてご紹介しています。記事の後ろの方に解答と解説を載せますので、クイズ感覚でチャレンジしてみてください!
■■■ 平成27年 問題45 ■■■
権原の性質上、占有者に所有の意思のない他主占有が、自主占有に変わる場合として2 つの場合がある。民法の規定によると、ひとつは、他主占有者が自己に占有させた者に対して所有の意思があることを表示した場合である。もうひとつはどのような場合か、40 字程度で記述しなさい。
本問は合格者の方でもかなり苦戦を強いられた問題だったようです。
まず何を問われているのか?どの条文の話をしているのか?がピンとこなかった、というご感想を多数の方から頂きました。
ここでじっくり、考えていきましょうね!
問題文に「所有の意思のない他主占有」とありますので「自主占有」はその反対で「所有の意思のある占有」ということになりますね。
所有の意思とは自己に所有権を帰属させる意思をいいます。
他主占有と自主占有の違いは何でしょうか?
そうです!時効取得できるか否か、という点が違うのでしたね。
つまり、本問は「時効取得できない他主占有が自主占有に転換する要件は何か?」が問われているのです。
時効取得とは占有の継続により権利を取得できるという効果が発生するので、本問の解答となるべき条文は物権編にあります。185条です。
185条は「権原の性質上占有者に所有の意思がないものとされる場合には、その占有者が、自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、又は新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始めるのでなければ、占有の性質は、変わらない。」
本問で「民法の規定によると、ひとつは、他主占有者が自己に占有させた者に対して所有の意思があることを表示した場合である。」とあるのは185条の前半の要件を紹介しているわけです。
ですから、もうひとつの場合とは185条の後半に書いてある要件を答えればいいのです。
「新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始める」ことが要件になります。
「新たな権原により更に所有の意思をもって占有を始める」とはどのような場合か、と申しますと例えば賃借人が賃貸人から賃借物を買い受けたとき、です。賃借人は他主占有者ですが、「売買」という新たな権原(法律上の原因という意味ですね)により所有者としての意思をもって占有を始めて、自主占有者になる、ということですね。
今後の択一問題で出題されるかも?なんてちょっと思いましたので簡単にご紹介します。
昭和46年11月30日の最高裁判決です。
事案は次のようなものになります。
Yから不動産の管理を任され、賃借していたAが死亡し、相続人Xが当該不動産につき新たに占有を開始しました。ところが、Xが賃料を支払わなかったのでYはXに不動産からの立退きを請求した、というものです。
この場合において相続人XはYに対して民法185条の「新権原」により自主占有を始めたものとして当該不動産の時効取得を主張することができるか?が争点として争われました。
判例は次の要件を満たす場合には、相続人は独自の自主占有に基づき取得時効の成立を認めることができる、としました。
1.新たに相続財産を事実上支配することによって占有を開始したこと。
2.相続人の占有に所有の意思があること。
結局、本事例では相続人Xの占有は自主占有とは認められませんでした。
もしかしたら、記述式で民法185条の要件を出題していますので次は185条にちなんだ判例が出題されるかもしれませんね。択一と記述式の出題は深くつながっていますからね。
本試験問題にチャレンジ!の解答・解説
問題45
正解例1
他主占有者が新たな権原によりさらに所有の意思をもって占有を始める場合(34字)
正解例2
他主占有者が新たな権原によりさらに所有の意思をもって占有を始める場合に自主占有に変わる。(44字)
いかがでしたでしょうか?
「新たな権原」、「所有の意思」がキーワードですね。