平成30年3月15日に判示された最高裁判所の判例についてご紹介します。
日本国籍を有する男女が日本で婚姻後、米国に移住し、子が出生しました。
その後夫婦仲は悪化し、妻は夫の同意を得ることなく、子(当時11歳3か月)を連れて日本に入国し、子と共に暮らし、監護していました。
夫は「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)の実施に関する法律」(以下、実施法といいます)に基づき、妻に対し米国に子を返還することを命ずる旨を東京家庭裁判所に申し立て、返還を命ずる旨の終局決定を得ました。
しかし、この決定内容は、妻の激しい抵抗にあい実現されませんでした。
そこで今回、夫は人身保護法による釈放を求め、最高裁判所に上告したというわけです。
最高裁判所は
「国境を越えて日本への連れ去りをされた子の釈放を求める人身保護請求において、実施法に基づき、拘束者(妻)に対して当該子を常居所地国に返還することを命ずる旨の終局決定が確定したにもかかわらず、拘束者がこれに従わないまま当該子を監護することにより拘束している場合には、その監護を解くことが著しく不当であると認められるような特段の事情のない限り、拘束者による当該子に対する拘束に顕著な違法性(人身保護法2条1項、人身保護規則5条)があるというべきである」
との判断を示しました。
そして夫の請求を認め、原判決を破棄し、名古屋高等裁判所へ差し戻す旨の判断をしました。
日本人と外国人の国際結婚が1980年代後半から急増したことに伴い、国際離婚も増加し、結婚生活が破綻した際、一方の親がもう一方の親の同意を得ることなく、子を自分の母国へ連れ出し、もう一方の親に面会させないといった「子の連れ去り」という問題が増加したことがこの判例の背景にあります。